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メテオ・ガーデン
05. 夢の庭にて<5>
彼は歌、彼は秘密。
秘密を口にしたら消えてしまう幻、覚めてしまう夢。
彼に会うたび、少女はそう思う。けれど、柔和な横顔をみるたび、それを崩したいと思う自分がいる。夢から覚めた冷ややかな現実のなかに、彼をみつけたい。そこにいる彼が、夢ほどやさしくなくても。
「エンジュ」
その夜も、少年はほほえんでいた。水路に映る星を手でかき、少年は顔をあげた。なだらかな傾斜のうえを流れていく水が、さらさらと音をたてていた。
「わたしは戦いに、遠くへいく」
「夢に距離は関係ないでしょう? エンジュが生きている限り、また会える」
「ええ。でも、もう二度と会えないかもしれない」
「あなたはそう思っているんだね」
「思ってる。今までのわたしは、戦っていたんじゃない。殺していただけ。今度は——戦いなの。だから」
エンジュは今まで封じこめていた問いを、口にする。「もしまた会えたら……あなたの名前を、教えて」
あなたのことが知りたい——エンジュはそう告げた。
少年の表情は、なにひとつ変わらなかった。
「あなたとはまた会う。あなたはわたしを知る」
歌のような笑みが、今は怖かった。
名前のない少年は、今までずっと、エンジュのまえに存在していなかったかのようだった。
To be continued.
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