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Regina 第1章 恩義という名の剣を掲げて

第4話 祭日

 パリリア祭の主な催しものは正午過ぎに始まる。中央広場に特設されたテントでの喜劇や、舞踊団の公演などだ。けれど、午前中は午前中で、街中で砂糖菓子が配られ、そこここで祭ならではの遊戯が行われる。月佳の通うエトルリア士官学院の運動場も、その日だけは開放されて競技大会の舞台となる。

 競技大会は、徒競走や円盤投げといった陸上競技と、剣技や棒術といった武道競技に分かれる。出場は元服もしくは成人したメーヴェ国民なら誰でも可能である。観覧は誰にでも許される。この競技大会というのが、勝利者は栄光をつかむだけでなく、莫大な賞金、皇室や将軍の目にかなっての任官という例も多く、腕力自慢の男たちにとってこの上ない好機となる。

 また、その一方で、誰が勝利するかに賭ける賭博が行われており、栄光の裏で動くものたちが存在する。そのため、一般市民、特に女性や子供は競技大会は観覧すらしないことが多い。競技大会はいわば、ある種の男たち限定の催しなのである。

 午後の観劇や舞の観賞は、午前中の競技大会に比べれば危険も少なく、何といっても舞を好むのは女性が多いので、午後の催しもののほうが見学者の人数が増える。それで、パリリア祭の主な催しものは正午過ぎに始まる、というのが一般的な認識であった。

 ヘイゼルグラント家からは、門番ディアークが棒術大会に出場するほか、屋敷を守る衛兵ら数人が剣術大会に出場することになっていた。そのため、ディアークはこのところ、道場に入りびたりなのである。もちろん、出場は本人が志願した。ディアークを虐待する桂月が出場を命じるはずがない。けれどディアークは、この大会でよい成績を出すことで、月佳と同じ道へ進む第一歩とする心づもりであった。

 当日も、前夜おそくまで桂月の相手をしていたにもかかわらず、朝早くに起きだして鍛練に励んでいた。月佳はその日たまたま、ディアークのかけ声が聞こえはじめたころ目を覚ました。今日は、ディアークの試合が終わったあと、中央広場で待ちあわせである。カイとではない、ディアークとだ。偶然にも、カイが月佳に指定した時間と場所は、ディアークとまったく同じだったのだ。

(どうしようかな……)

 月佳は窓からディアークを見下ろしながら、困り果てていた。

 ディアークがカイの顔を覚えていなければ別に問題はない。三人で祭をまわればよいだけのことである。しかし、カイのあの顔が、自分を襲った少年と同じ顔であることに気づかれたら。あの夜、自分は恐ろしさに泣きわめいていたから、ディアークが少年の存在に気づいていたか定かではない。仮にディアークが気づいていて、しかも顔を覚えていたなら、彼は少年に攻撃を加えるだろう。乱闘沙汰になったら、勝つのは少年にちがいなかろうが、それではディアークが気の毒だ。

 月佳は庭に下りていった。

「おはよう、ディアーク」

 少年は月佳の姿を認めると棒を休めた。いつもの笑顔で、おはようございます、と返した。彼の顔を見てしまうと、よけいにうしろめたい。が、黙っていてもどうにもならないので、

「あのね、今日のことなんだけど……友達も一緒でかまわないかな」

「学院の方ですか? もちろん、かまいませんよ」

「えっとね、昨日……一昨日……街で知りあった子なの」

 わかりました、と少年は言う。それ以上はとてもじゃないが言えない。

「御用はそれだけですか? さあさあ、僕はまだしばらく稽古をしたいので、ここにいらっしゃいますと棒に当たりますよ。お部屋にお戻りなさいませ」

 まだ言いたいことがあるような気がして、月佳は動かなかった。

「ねえ、わたし今日、競技大会を見学しちゃだめ? ディアークは仕官するんでしょ。どれくらい強いのか見ておきたいの」

「それはなりません。競技場の観客席は柄の悪い男ばかりですから」

 一蹴され、月佳は不満げな表情を隠さない。黙ってディアークをみつめ、動こうとしない。月佳はディアークの笑顔や悲愴な顔に弱いが、一方のディアークといえば、月佳にとことん弱い。ディアークは彼女の願いは必ず叶えようし、彼女の悲しみを自分の悲しみにしてしまう。彼は困惑した。

「じゃあ、先生に……アルバイン先生に、月佳様を預かっていただけるようにお願いしましょう。先生は賓客として観覧席にいらっしゃるはずですから、先生に月佳様を守っていただければ安心です」

「アルバイン将軍、六将軍の方ね! でも、そんなこと承知してくださるのかなあ。わたしは別に一人で一般席に入っても」

 と、言いかけるのを、ディアークは許さない。

「月佳様が一般席にいらっしゃるなら、僕は出場をとりやめます」

 わかった、と言いつつ、月佳は納得がいかない。いくら危険な場所といっても、自分はいずれ軍人として男たちをまとめる者になるのである。そんな場所にいられないほど弱いなら、軍を統率することなどできるわけがない。そう考える一方で、一昨日のことを思いだす。自分はスラムの悪漢にかなわなかった。無力な女子供と変わりなかった。

「月佳様がお友達を紹介してくださるのは初めてですね。楽しみです」

 そう言って笑った少年の顔を見て、またうしろめたさがよみがえる。

(カイとディアークに、何ごともありませんように)

 月佳は部屋に帰り、少年は稽古に戻った。

 その後、朝食をとっていると、棕櫚が耳打ちしてきた。

「例のこと、よろしくね。月佳」

「え? お義姉様、何かおっしゃいましたっけ」

 棕櫚は顔を紅潮させ、やや憤然として言う。

「嫌な子ね。やっぱり昨日の話、ぜんぜん聞いていなかったんだわ」

「すみません」

 月佳が頭を下げると、

「まあいいわ。あのね、月佳、今日の競技大会、皇太子殿下も出場なさるんですって。剣術の部だそうで、ずいぶん自信がおありのようだったわ。月佳、行って観てきて頂戴」

「承知しました。ちょうど、ディアークの棒術を観にいくつもりだったんです。あ、義父上、御心配は無用です。ディアークの師であるアルバイン将軍が同席してくださるはずですから」

 桂月は一瞬、不愉快そうな顔をした。ディアークが武道に通じていること自体が気に食わないのである。が、すぐに、いつもの威厳ある義父に戻った。

「ロガートがいるなら安心だ。いい勉強になるから、しっかり見学してくるといい」

 そう言って笑みを見せた。

「義父上は出席なさらないのですか」

「私は少し体調を崩しておってな」

 桂月が毎晩のようにディアークを部屋に呼んでいることを、月佳は知っている。体調云々ではなく、本音は強くなったディアークの姿を見たくないといったところだろう。今日の大会で、もしもディアークが誰か将軍にでも認められたら、義父はどんな反応をするだろうか。月佳は非常に興味があった。

(皇太子の名は確か、カイザールディオン様、とお義姉様が言っていたっけ。わたしも、いずれ仕えることになる御方)

 月佳とディアークはヘイゼルグラント邸をあとにして、会場となるエトルリア士官学院の運動場をめざした。ディアークの手には、棒が強く握りしめられている。

 きっと彼は強くなるだろう。わたしは軍に入ったあとまで誰かに守られているつもりは毛頭ないから、彼には負けない。いずれは自分も剣術大会に出よう、と月佳は決めた。もうすぐ元服である。来年には参加できる。

 学院の運動場に到着すると、確かに柄の悪い男たちがここぞとばかり集まっていた。華奢なディアークと月佳の二人は周囲から浮いている。しかし、ここで騒ぎを起こせば、出場・入場停止処分が下されるので、誰も二人をからかったり、ちょっかいを出してきたりはしない。だが、周囲の出場者たちが、とくにディアークを嘲笑しているのは明らかだった。

「ディアーク、来たな」

 太く重い、威厳を感じさせる声だった。ロガート・アルバイン将軍である。ディアークが、先生、と呼び、互いに歩み寄った。月佳はアルバインを見あげた。大柄でたくましいが、内に秘めた知性を感じさせ、それでいて、目を見れば気が好さそうであった。月佳は恭しくお辞儀する。

「これはこれは、どちらのお嬢さんだ、ディアーク」

「こちらは、僕がお仕えするヘイゼルグラント家の御息女・月佳様です。今日は僕の棒術をご覧になりたいと仰せなのですが、危険な一般席にお一人にするのは心もとなく、先生のお席にご一緒させていただければと。厚かましいお願いですが、どうかお願いします」

「かまわぬよ。ディアーク、おまえの願いならば、聞き入れよう。これが噂の桂月の養女だな。来週、元服を迎えるとかいう」

 はい、と月佳は返して、姿勢を正した。ディアークや出場者だけではない。自分も、いずれ仕官する者として、見られているかもしれないのだ。

 くれぐれも月佳様をよろしくお願いします、と言って、ディアークは出場者の控え室に向かった。アルバインは月佳をつれて貴賓席に入っていく。月佳は、かの六将軍のひとりに肩を抱かれていると思うと、少し緊張した。周囲には、その名を知られた六将軍のうち何人かが座っている。月佳は興奮に頬を赤らめながら、それぞれにあいさつした。それから席に着くと、もっとも気がかりだったことをアルバインに尋ねる。

「あの、アルバイン将軍、ディアークの棒術はどうですか」

 アルバインは破顔して答える。

「まだ入門して半年も経っていないのに、私の道場の誰よりも強くなった。私の息子など、彼が入門した時点で負かされてしまった」

「本当ですか」

 月佳はつい顔をほころばせた。そのあとで、悪気はないとはいえ将軍の子息を侮ったことに気づき、

「とんだ無礼を」

「ふふ、いいのだよ、息子は本当に、武術はからっきしでな。いや、武術だけでなく、学問もだ。今の私のいちばんの悩みの種なのだよ。このままでは、息子にアルバイン公爵家を与えることはできまい」

「あの、失礼ですが、ご子息はおひとりしか……?」

 途方に暮れた目をした将軍に、月佳はつい尋ねる。幸い、アルバインが気分を害した様子はない。

「そう、元服を終えたばかりの不肖の息子がひとりだけだ。あいつは死に別れた妻の忘れ形見だから、継がせたいとは思うのだが、これでは考え直さざるをえない。最近になって後添えを迎えたが、いまだ子はなさぬし」

 穏やかながらも嘆息まじりのアルバインである。月佳の口は自然と、跡継ぎとなる方には、どんなことを望まれますか、などと訊いていた。

 ディアークを義父から引き離し、かつ彼が望むように仕官させるなら、将軍の息子などの肩書きがあったほうが都合がよい。状況も立場もわきまえず、六将軍といわれる人物にこんな話をもちかけるとは、かなり無理矢理という気もするし、われながら呆れる厚かましさだ。けれど他にあてがない。棒術の師という縁もあることだし、もしもアルバイン将軍がふさわしい者に爵位を継がせるつもりなら、ディアークほどうってつけの人物が他にいるだろうか。

「それはもちろん、私の得意とするところの棒術に長け、学問にも通じ、機転が利き、判断力があり、まあ、言いだすと切りがないな。理想は果てしない」

「わたしには、推薦したい者がございます」

 アルバインは表情をかたくした。まさか少女が真剣な話をしているとは思ってもみなかったのである。

「ディアークを将軍の養子として迎え入れてはくださいませんか。いえ、養子とまでいかなくても、将軍に仕えさせてあげてほしいのです。彼をこれ以上、ヘイゼルグラント家においておくべきではないのです。わたしの義父の家にいるがために、彼は苦痛を味わっている」

 熱っぽく述べた月佳の目から、涙があふれていた。パリリアの熱狂にあてられていることもあるのだろう、と月佳は自分でも思った。ここ数日、泣いてばかりいるような気がする。いや、それもあるが、この降ってわいたような話に、本気ですがりたいというのもある。おぼれる者は藁をもつかむというが、ディアークを救いたいのに、救う手立てが思いつかずにもがいている月佳はまさにおぼれる者で、アルバインが何気なく話した跡継ぎの件はまさに藁であった。つかめるものならつかみたい、と月佳は真剣に思った。

 アルバインはいぶかしげに首を傾げた。何をそんなに真剣になっているのかがわからないのであろう。

「義父は、彼を稚児として家に入れたのです。彼はそれを拒んでいるのに、義父は強要します」

 月佳の言葉に、アルバインは驚きを隠せないようであった。桂月に男色趣味があるなど、噂にも聞いたことがなかったらしい。

「ディアークは嫌なのに、わたしのためにヘイゼルグラント家から出ようとはしません。彼はわたしを守ろうとしてくれているのです。けれど、彼の守りはわたしには不要です。わたしも武官になるのですから。でも、彼の気概は買ってやりたい。稚児としての役割をつとめる一方で、わたしを守るために士官の道を歩もうという、怖いくらいの健気さではありませんか」

 月佳は、将軍に口を挿む余地も与えず続けた。

「でも、義父は必ず、彼の道を塞ぐでしょう。たとえ今日、彼が勝ち、皇帝陛下の目にかなったとしても。わたしは彼を義父の束縛から逃してやりたい。義父から解放し、彼の望むような道を行かせてやりたい。そのために、将軍のお力が必要です。お願いです、アルバイン将軍」

 アルバインは困惑している。

 ――だめか。

 月佳は落胆した。

 もう、競技大会など観る気力もなかった。眼下で開会式が行われていたが、もはやどうでもよかった。

「月佳嬢、君からそんなことを言ってもらえるとは思わなかった」

 月佳は、目をみひらいた。

「実は、すでに彼とは、約束しているのだよ」

 アルバインはそう微笑んで、月佳の頭を愛おしそうになでた。

 彼女はディアークが、今度はアルバインとのあいだにいかなる秘密をつくったのかと勘ぐった。月佳が問わずとも、アルバインは語りはじめた。

 あの朝、アルバイン家の門が激しく叩かれた。

 使用人が確認すると、ヘイゼルグラント家の門番、ディアークという者で、棒術を習いたいのだという。アルバインは二つ返事で許可した。アルバイン将軍家の道場の門は広い。広いからこそ、腕の立つ者から才能の欠片すらない者まで集まってくる。アルバインは、道場はそうであるべきと考える。ディアークはそれを調べたうえで、アルバイン家にやってきたらしかった。

 さっそくディアークは棒を持たされた。棒など持つのは初めての彼であったが、試しにアルバインの息子と試合してみよといわれると、気迫だけで相手の棒をとばしてしまった。棒術を習うことが未来につながるディアークと、いわれるまま漫然と習ってきたアルバインの息子とでは、やる前から勝負は見えていたようなものであった。

 それ以来、ディアークは足しげく道場に通って鍛錬を重ねた。稽古が進むにつれ、彼の腕は上達していく。彼の成長の早さには、弟子たちの誰もが舌を巻いた。彼があらゆる古参の弟子をやすやすと倒すようになったころ、パリリアが近づいてきた。

 少年はアルバインに試合を申しこんだ。呆気なく負けた。アルバインが彼の意欲を喜んで、何度でも再試合してやるぞ、などと言ったので、ディアークはその場で遠慮なく打ちこんだ。何度となく彼の棒は弾きとばされた。

「おまえは何を焦っているのだ、ディアーク。急げば技が中途半端になると思わぬか」

「思います。けれど、時間がない。先生、もし僕が先生に勝ったら、お願いを聞いてください」

 ディアークの体力が尽きると、アルバインはディアークに語りかけた。ディアークは明瞭に師の問いに答えた。

「そなたの願いとは、何だ」

「僕がヘイゼルグラント家にお仕えしていることはご存じですね。そこには、僕の命の恩人のお嬢様がいらっしゃいます。お館様のことを悪くいうのは礼に反することですが、お館様は、無体にもそのお嬢様に太陽を押して公爵家を継げとおっしゃるのです。お嬢様は気丈な方ですが、お嬢様はお嬢様です。軍に入れば、きっとご自分の非力さを痛感なさるでしょう。僕もともに仕官してお嬢様をお守りしたい。しかし、ヘイゼルグラント家にいては、僕はその道を開くことができません。そこで先生、僕が先生に勝ったら、僕を先生の養子にしてください。形だけでけっこうです。そうすれば、僕はお嬢様と同等の身分になることができるし、昇進の早さもお嬢様と一緒です。そうしたら、いつもそばにいて、お嬢様をお守りします。厚かましい願いですが、先生、どうか……」

 彼の切なる想いが、声音から、顔色から、その黒い瞳から、伝わってきた。人情家で実力主義のアルバイン将軍は、むげに断わる気だけはしない。しかし、養子にするというのはどうするか。いちおうアルバイン家には跡とり息子がおり、しかも亡き妻の忘れ形見である。親子の情を優先するか、実力と一途な心をとるか。彼を家に迎え入れれば、実子とのあいだに軋轢が生じる可能性も高い。

 それでも、アルバイン将軍はうなずいていた。もともとディアークには好意をもっていたからだ。誰よりも努力し、誰よりも謙虚な彼は、数多の弟子の中でも思わずひいきにしたくなる。

「本当ですか」

 ディアークが確信を得られぬ様子でつぶやいた。その声で、アルバインははっと我に返る。うなずいたからにはもう後には退けぬな、という言い分を胸に、アルバインは告げる。

「おまえが私に勝てる日など来ると思うか? パリリアの競技大会で優勝を奪ってこい。そうしたら、次男としてだがアルバインの姓を与えてやる」

 ディアークは額を床に擦りつけてアルバインを拝した。アルバインは破顔した。

「もうすぐ義父となる者に対する態度がこれか、ディアークよ」

 少年は美しい顔を歪ませて泣いていた。そのために頭を下げたのである。決まり悪そうに面をあげると、涙を拭った。

 アルバインには、彼のそのときの美しさが目に焼きついている。アルバインに男色趣味はないので、ただ純粋に美しい存在を美しいと思った。そして、ディアークの美しさは、アルバインの若き後妻ラーシェの目にもまた、焼きついていた。彼女は道場をのぞきみていたのである。しかしこれは、ラーシェ本人しか、そのときはまだ知らぬことであった。

 さて、その話はどう聞いても、もともとアルバインはディアークを引きとるつもりだったということだ。月佳は心底うれしく、将軍の傷だらけのてのひらにくちづけた。

「だが、まだわからぬ。出場者は猛者ばかりだ。果たしてディアークに優勝が叶うかな」

 意地の悪いことを言いながら、アルバインの顔はほころんでいる。将軍がディアークの優勝を確信している。それほど、彼は強いのだ。

 ――すぐに追いかけるよ、ディアーク。

 月佳はそう思いながら、競技場をみつめていた。

 武道の部は、まず剣試合からであった。

 そういえば、この試合には皇太子が出る。皇太子を探して、少なくとも顔は拝んでおこう、と月佳は競技場を見渡した。皇太子の特徴としては、さわやかな印象の容貌と低い身長くらいしか聞いていない。これだけでわかるものだろうか。アルバイン将軍に尋ねようかと思ったが、アルバインはさすがに武官だけあり、観戦に集中している。あの、と問いかけた月佳の声も届いていない様子だ。進行係の声と自分の勘を頼りにするしかなさそうだった。

「第一試合!」

 進行係の声が会場中に響きわたる。次いで、出場者の名が呼ばれた。どうやら第一試合に臨んでいる男は、その道では知られた人物らしく、名が呼ばれると歓声があがった。もしここで、皇太子がカイザールディオンという本名で臨めば、会場が大騒ぎになるのは目に見えている。皇太子は偽名を使うにちがいない。となると、顔を見て判別するしかないようだ。

 なるほど、歓声を浴びた男の剣技は見事だった。男はあっというまに対戦相手の首に剣を突きつけていた。この男、仕官するかもしれない。月佳はその名を覚えておくことにした。男――二十歳前後の長い黒髪の青年――の名は、カイン・ビスマルクという。

 第三試合、またしても月佳は呆気にとられた。その試合の出場者の片割れが、なんとあのカイだったのである。

「第三試合、カイ・シーモア対ジョン・ワーテル!」

 予想外であった。どうもあの少年は、すでに元服をすませていたらしい。背が自分と同じくらいだったので、てっきり中性かと思った。

(シーモア、シーモア……か。商人の名では聞いたことがない)

 カイは競技規定の長剣を携えて運動場にたたずんでいた。仔鹿色の髪が風になびいている。身長が低いので長剣が似合わない。相手の男は、カイに比べれば長身だが、昨日のカイの剣術への自信ぶりを思えば、おそらくカイは勝利するのだろう。ジョン・ワーテルは試合開始の合図とともにカイを突こうとしたが、カイはひらりとかわして逆に男を突いてしまった。これまたあっさりと片のついた試合であった。

 その後もカイは順調に勝ち進んでいった。会場の白熱をよそに、彼は汗ひとつかいていない。やはり汗ひとつかかずに勝ち進んでいるといえば、月佳が目をつけたカイン・ビスマルクである。それとあとひとり、月佳には気にかかる人物がいた。その名はマルクト・ハーディヴァ。いいものを着ているし、身長も月佳と同じくらいである。黄金の髪と明るい青の瞳、遠目から見てもさわやかな容貌、年齢も十四と言われればそのぐらいかと思われる。

 ――彼が皇太子だ。

 月佳は即断した。

 凖決勝、そのマルクト・ハーディヴァとカイが当たる。もう一方の凖決勝では、すでにカイン・ビスマルクが勝利して決勝進出を決めていた。

 ここまで少年二人の善戦を目の当たりにしてきた観客は、その好試合に沸き立った。月佳も少なからず興奮した。カイが皇太子と戦う。自分が仕えるであろう方とカイが剣を交えるのだ。

「凖決勝第二試合、マルクト・ハーディヴァ対カイ・シーモア!」

 会場はこれまでにないほど熱狂した。単に、賭博を行っている者たちが熱狂しているだけという気もするが。

 競技場の中心で、カイとマルクトは視線をぶつからせている。カイの深緑の瞳とマルクトの空色の瞳が鋭く光っていた。はじめ、と進行係が叫ぶ。二人は動かない。かまえたまま、動かない。お互い隙を見つけられずに動けない、といったほうがよい。二人が動こうとしないので、観客も息をひそめた。静けさが広がった。

 これまで見てきた限り、カイは短気である。マルクトはどちらかといえば気長なほうなのだろう。いらだちを先に見せたのはカイであった。カイが足を踏みだし、ざり、と砂と靴とが擦れる音がしたかと思うと、次の瞬間には激しく剣で打ちあう音が響いていた。月佳も観客も息を呑む。二人が二人とも、とてつもない腕の持ち主であることが誰の目にもわかる。戦いからいったん身を引いたのはマルクトだった。彼は、勢いよくカイの剣に自分の剣を当てると、後退した。そこにすかさずカイが攻撃を加えた。

 相手の体のどこかに剣を打ち据えれば勝ちである。はやく終わらせたいのか、カイは今までにない速度でマルクトに剣を打ちこんでいく。マルクトはそのすべてを受ける。あきらめたのか、今度はカイが退いた。よって次はマルクトが打ちこむ番となった。カイもそれを受け損ねない、一度たりとも。それを幾度か繰り返すと、また激しく剣を戦わせる。この大会で、もっとも長時間を要する試合となった。

 マルクトとカイはどちらも退かない。どちらも勝利を得るつもりでいる。二人はいよいよ渾身の力をこめて剣を操りはじめた。剣のほうが二人の力に敵わなかった。しょせんは練習用の安物の剣である。激しく打ちあっていたそのとき、二本の剣が同時に折れた。それで二人の動きはついに止まった。

 鼓膜を破らんばかりの歓声が、会場を埋め尽した。誰かが手を叩きはじめたので、月佳も倣った。たちまち会場は拍手の嵐となった。少年たちの卓越した剣術に、みながみな感銘を受けていた。

「この勝負、引き分け。互い負け。よって剣術の部、優勝はカイン・ビスマルク」

 優勝者にしか栄誉は与えられないというのが、月佳には残念であった。皇太子もカイも、驚くべき技を発揮したというのに。ビスマルクは杯を授与された。賭博の参加者が大いに盛りあがっている。

 カイとマルクトは、まだ現実に立ち返っていない状態で、折れた剣を持ったまま立ち尽くしていた。ビスマルクが杯を受けとるそのかたわらで、カイがマルクトに歩み寄り、握手を求めた。二人が手を握りあうと、一般客は拍手喝采した。それで剣術の部は終了した。

「三人とも末恐ろしい」

 思ってもいない逸材の登場に、アルバインは満足している。

「私は近視も老眼も両方あってな、こう遠くては顔もよく見えぬのだが、あのカイン・ビスマルク、マルクト・ハーディヴァ、カイ・シーモアのすばらしさは嫌でも見える。必ず私は、彼らを皇帝に推挙するだろう」

 月佳はカイがほめられたせいか、なぜかうれしい。アルバインにむかって微笑む。

「次はいよいよディアークですね」

 そう言って、月佳は真剣な表情になる。この棒術の大会は、ディアークにとって今後のすべてを変える契機となるのだ。じっくり観ておかねばなるまい。

「続いて棒術の部! 第一試合……」

 そしてディアークはかねてよりの想像どおり、棒術の部の優勝を手にするのである。

「おめでとう!」

 大会が終わり、姿をみせたディアークに、月佳は飛びついた。うれしくてたまらないのはディアークとて同じである。彼は月佳を強く抱きしめた。背後で自分の義父となる男が微笑ましげにしているのに気づくと、あわてて月佳を離した。

 ディアークは顔を赤らめる。そんな彼を見てアルバインは、ふふ、と笑った。

「後日、ヘイゼルグラント家に迎えをやる。桂月にも挨拶をせねばな。どうせ今夜はパリリアの晩餐だ、その時に話をしておく」

「はい……お義父上」

 ディアークは言いよどんで、さらに赤くなった。月佳は彼の新たな一面を見たようで楽しい。しかし同時に、彼が自分の家からいなくなってしまうことのさびしさもあった。

 ――でも、いま別れても、いずれ白鳥城で会える。そのときは、皇帝の御前で騎士の誓いをするために。

 月佳はアルバインに深々と頭を下げると、ディアークに、行こう、と促した。きょうは一日、彼はまちがいなく月佳とともにいる。貴重な彼との時間を、大切に過ごさなくては。

「それでは、これで失礼します。アルバイン将軍」

 少女と少年は将軍の前を辞した。

 二人がめざしたのはエトルリア中央広場である。カイとの待ちあわせの場所だ。時間はもう正午に近い。

 道すがら花屋を見かけた。先日、月姫クラウディナに花をあげる、と言ったことを思いだす。けれど、約束した相手は今やこのエトルリアにはいない。

 正午近くなったエトルリア中央広場は、じきに開演する喜劇の観客でにぎわっている。月佳はカイを探した。まだ来ていないのか、見当たらない。が、どこか安堵した自分に気づく。ディアークがカイの容貌を覚えていたら、今日の楽しいパリリアは台なしになってしまう。

 ただ待っているのではおもしろくないので、月佳はディアークとともにアン=リエ舞踊団の出演者を確認しにいくことにした。クラウディナとリュン=リエがすでに発見されていて、きょう出演するというのもありえない話ではない。

 アン=リエ舞踊団のテントを探した。今日は三団体の舞踊団の公演があるらしい。喜劇が催されるテントのむこう、それら舞踊団のテントがある。

 三つのテントに下げられている団体名の札を確認して、月佳は愕然とした。アン=リエ舞踊団が、三つのなかにないのである。そういえばエルテナの姿もみえないし、プリムロゼやラケルなど、その場にいるだけで目立つような美しい踊子たちの姿もない。月佳はテントを出入りしている団員らしい女を捕まえてみる。

「あの」

 その中年女はかなり忙しそうだったが、気づいて立ち止まってくれた。

「なに? 見てのとおり忙しいんだよ」

「アン=リエ舞踊団のみなさんは……」

 月佳が不安げに尋ねると、女は何度も問われた質問に答えるように、よどみなく答えた。

「あそこはねえ、月姫って呼ばれてた踊子が、皇帝に妾にと望まれたのに恋人と駆け落ちしちまったのさ。それで、前にもあそこの踊子が後宮から逃げだしたことがあったからねえ、今度は許されなかった。前から密かに皇帝の寵愛を受けていた団長と、もうひとり妾に望まれていた踊子はすぐさま後宮にブチこまれたし、舞踊団は解散させられて、踊子たちは今朝ここで競売にかけられたんだよ。何人かは今から公演する舞踊団に引きとられたし、何人かは娼館が買ってったかな。変な富豪に買われた子もいたねえ。ウチもひとり、サリアって美人を買わせてもらったよ。あの子は値が張ったからねえ、あと何人か下働きがほしかったけど買えなかったわ」

「お願い、サリアさんに会わせてください!」

 月佳は女に懇願した。あの子はきょう出るから、化粧中でもよければ会わせてやってもいいよ、と女は快諾してくれた。月佳が若い娘で、女を奪っていくようには見えなかったからであろう。月佳が仮に男だったら、まちがいなく断られたはずである。かのプリムロゼ――皇帝に妾にと望まれた踊子――をさらって逃げようとした男がいたように、サリアも奪われかねない。そうなれば大損である。

 月佳とディアークは楽屋に案内された。サリアは化粧に熱中している。

「サリアさん。覚えてますか、わたし、月佳です」

 月佳が声をかけると、サリアは肩を痙攣させた。いきおい、紅がずれ、はみだした紅を拭きとりながらサリアは答えた。

「よーく覚えてるわよ。なんたって、英雄様々の御息女ですもんね。あら、かわいい子つれてるじゃない、いいわぁあたし好みよ! 坊や、安くしてあげるから、今度いらっしゃいな」

 するとディアークは、あわてて楽屋から飛びだしていった。

「あたしうぶな子って大好き! いつかあの子に抱かれたいわねえ」

 おそらく外にいるであろうディアークに聞こえるように、サリアは声を張りあげた。月佳は赤面する。

「そんな話をするためにきたわけじゃないって、わかってからかってますね?」

「それはもちろん。……いいわ、何が聞きたいの? 舞踊団がつぶされた理由? クラウディナたちの行方? プリムロゼの悲劇?」

 サリアは真顔になった。月佳は何よりも気にかかっていることを問う。

「エルテナの行方です」

「ああ、あの子も買われていったわ。月姫の弟ってことでいい値段だったわよ、嫌になっちゃうわ、クラウディナの弟ってだけでこのあたしよりも高いんですもん。まあ、あの子もキレイになることでしょうけど、なんだか腑に落ちないわ。えっと、誰だったかな、……ああ、そうそう、富豪だったわ。それもマディナから祭見物にきてた、ナントカいう大富豪の親父よ。エルテナをひと目みるなりすごい剣幕になって、開始金額の五十倍の値段をいきなり言って買っていったわ。あの親父、ぜったい典型的な変態金持ちね。あーあ、かわいそうに、エルテナ。クラウディナもかわいそう、今までエルテナの幸せにばっかり心を砕いていたってのに、変態親父のお人形さんになっちゃうんだから。それも、自分が逃亡したばっかりに。ざまあ見ろだわ」

 マディナはメーヴェの南側にある王国で、「燃ゆる水」が産出されるという。「燃ゆる水」の利益で膨れあがっている富豪が数多いるのである。そのうちの一人に、エルテナは買われていったという。

 月佳はサリアに重ねて質問することができなかった。平気なふりをしながらも、彼女が強いて感情をあらわさないようにしているのが痛々しかった。月佳はテントを出る。エルテナは、飢え死にすることだけはないのだ。月佳はそれを自分への言いわけにして、エルテナを忘れることにした。いくら彼を助けたいと思っても、今の自分にはその力がない。生きていてくれる、それだけでいい、と月佳は自分に言い聞かせた。

 さて、テントの外に、自分を待っているはずのディアークがいない。

 月佳は、来るべきときが来てしまったのかもしれない、と嘆息する。そのとき、少し離れたところに人だかりができていて、そこから歓声があがっていた。

 人だかりの中心にいたのは、もちろんディアークとカイである。ディアークの観察力はやはり侮れなかった。彼は月佳を襲った少年を覚えていたのだ。少女は複雑な気持ちで人ごみをかき分けた。

「あんた、あのときの月佳の下僕だろ? やっぱり俺の顔、覚えてたんだな」

「当然だ。月佳様に不埒な真似をした者の顔を、この僕が忘れるはずがない。ところで……貴様ごときが、月佳様の名を気軽に呼ぶんじゃない! 無礼者が!」

 ディアークは棒をかまえる。カイは短剣をとりだす。

 そこに、月佳が割って入った。やめて、と言いながら、事情の呑みこめていない二人の武器をとりあげる。事情を説明するから来て、と二人を促すと、けんか好きな野次馬たちは興ざめして散っていく。

「どういうことです月佳様! この者のしたことをお忘れになったのですか、それともまさか!」

 ディアークがいつになく早口で月佳をまくしたてる。カイは、自分が月佳を襲ったことは事実なので口を挿まなかったが、月佳と二人だけでパリリアを見物すると思っていたのだろう、明らかに不満げであった。

「カイ、ごめんね。ディアークとの約束はずっと前からの先約なの。それに、もうすぐ彼、家を出てしまうから、これからはあまり一緒にいられないの。今日は一緒にいたい」

 ふうん、とカイ。

「でね、ディアーク。確かにカイはこのあいだわたしを襲ったまさにその人なんだけどね。本当は……いい人……かもしれない、と思うの。けんか売っちゃだめよ」

 ディアークは相変わらず憤然としている。カイも月佳の紹介には納得がいっていないらしい。ディアークにむかって一歩進みでると、みずから名のった。

「俺はカイ。容姿端麗、眉目秀麗、頭脳明晰にして剣術等武術全般に長け、一見強引かつ傲慢だが内面には深い思いやりの心を秘めている。王者の器を持つ。以上だ、お前も名のれ」

 相変わらずの自信過剰ぶりを、初対面も同然のディアークに披露してはばからないカイに、月佳は呆れた。ディアークも月佳も、カイの剣術の見事さは先ほどの大会で知っていたが、自分で自分の容姿をほめちぎり、果てには王者を名のる、堂々たる皇帝への不敬は呆れ返らざるをえない。

「僕はディアーク……ディアーク・アルバイン。月佳様の下僕だ。得意とするのは棒術、大会では優勝をいただいた」

 日頃は謙虚さがディアークの性であるのに、カイにつられてか少々誇るところがあるのが、月佳の微笑みを誘った。

 が、そのかたわらで二人はにらみあっている。この二人とともに祭見物など、無理だったか。

 しかし、ディアークは続けて言った。

「僕は、月佳様の下僕です」

 普段の彼の、丁寧な言葉である。

「月佳様がお認めになった方ならば、僕も認めましょう。月佳様が愛される方ならば、僕も愛します。先日の貴男の暴挙のことは忘れることにします。カイ様、本日は、貴男とご一緒できることをうれしく思います。何しろ貴男は、月佳様が僕に紹介してくださった初めてのお友達ですから」

 ディアークが一転、うれしそうに言うので、一瞬カイは呆気にとられていたが、すぐに明るい表情になった。カイのほうもディアークに好感を抱いたようだったので、月佳はほっと息をつく。

 三人は連れだって、まずは観劇することにした。さすがパリリアだけあって、俳優は名優ぞろいである。三人は何度となく笑いあい、談笑した。長い劇が幕を下ろすと、その次は三舞踊団の出演である。それぞれの舞踊団で、月佳はあの宴席で会った顔を見た。そのたびにエルテナの泣き顔が浮かんでは消えていった。まだ彼はメーヴェにいるのだろう、と思いつつ、月佳は無力な自分を呪った。

 すべての演目が終わった時点で黄昏時であった。テントを出ると、砂糖菓子をもらって味わった。貴族である月佳には、砂糖菓子などさして珍しいものではない。が、きょうこの日に食べるからこそ、舌に慣れている菓子もおいしく思える。エトルリアじゅうが幸福に包まれるこの日が、月佳は大好きだ。しかも左右には大好きな人と惹かれている人がいて、月佳にとっても至福の時であった。

 暗闇の色が濃くなったとき、カイが、明日はふたりで、正午に広場で会おう、と言って去っていった。月佳もディアークも手を振り、カイと別れた。いよいよ祭が終わろうとしていた。白亜の宮殿――白鳥城――を除いては。これから桂月や棕櫚は宮殿での晩餐にあずかる。月佳はまた中性なので登城できない。白鳥城への登城は、元服もしくは成人をすませた一人前の人間だけに許される。

 舞踊団はテントを片づけはじめていた。人々はそれぞれの帰路につく。一年でもっとも幸福な日が終わろうとしている。月佳は明日からまた学院で勉強の日々を過ごすことになり、一週間たてば誕生日、すなわち元服が待っている。月佳は、元服したくないという念にまた駆られはじめた。

 ――本当に、夢のような一日だった。すべてが夢のような。エルテナのことさえも。

 肌寒さを覚えて、月佳はディアークの腕にすがった。力強い腕。それがなんだか少女にはさみしい。けれど彼は、あたたかく月佳を包んでくれる。

「ディアーク……」

 彼女は昨日のエルテナのように、ぬくもりを求めて彼にすがった。

「はい、何でしょう」

 彼の血が凍ることはない。いつも月佳にぬくもりを与えてくれる。しかし、それはもはや、いつも当たり前にそこにあるものではない。

「わたしの前からいなくなっても、そのままでいて」

「もちろんです」

 自分勝手としか言いようのない月佳の言葉にも、彼はいちばんほしい言葉をくれる。

 月佳はまた、少しだけ泣いた。

To be continued.

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