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​精 霊

第二部 ラージャスタン・アグラ宮殿編

第4話「眠れる森で君を待つ」(1)

 少女の視界のなかで、赤い花弁が鮮やかに散った。

(季節が変わる)

 つぶやきにも似た言葉が、たたずむライラの胸に落ちた。

《赤の庭》に強風が吹きつけて、赤い花が散り、あるいは枯れるころ。それがこの国の、季節の変わりめである。

 ラージャスタンでは年じゅう温暖な気候が続くが、数少ない季節の変化として降水量の推移がある。一年のうちに雨季と乾季が一度ずつ巡り、雨季が他国の春と夏、乾季が秋と冬にあたる。いわゆる四季というものは、ラージャスタンにいる限り実感のない概念ではあるが、ライラにもそうやって異国の見方でこの国を解釈しようとした時期があった。

《赤の庭》は、客舎に滞在する客人の眼を楽しませる目的で整備された庭園であり、その名のとおり赤を基調としている。とはいえ、一年を通して同じ植物が赤い花を咲かせつづけるはずはない。《赤の庭》は、御用庭師たちの手によって時期ごとに植木が入れ替えられ、いつ何時でも《赤の庭》と呼ばれるに相応しい風貌を保つ。

 ところが、乾季が終わろうとしている今、《赤の庭》はその名にそぐわない景観になりつつあった。乾季の終わりに赤い花を咲かせる木々は、すでに盛りの時期を過ぎ、実がちらほらと顔をのぞかせている。例年であれば、花が満開の時期を迎えた直後には庭師たちが植え替え作業に着手するが、今年はそうできない事情があった。

 確かに庭師たちは、先日、新しい苗を携えてアグラ宮殿入りした。しかし、その「事情」を前にして、今やすっかり名前負けした《赤の庭》を前に二の足を踏んでいる。それを知って怒り狂ったのは、例によって《五星》次席のファンルー・イーリであり、「事情」を解消すべく派遣されたのが、末席たるライラだった。

 いや、ライラを遣わすほかない、といったほうが正確である。何しろその「事情」は、ライラ以外の女官を近寄らせないのだから。

「オースティンさま?」

 少女はほがらかな声音で彼を呼んだ。客舎での彼女は、ライラ自身ではない。彼女が彼女自身でいられるのは、後宮、つまりムリーラン宮の中のみである。

「オースティンさま、どちらにいらっしゃいます?」

 答えはない。答えがあったことはない。彼は他の女官を排除しただけでなく、ライラをも除きたがっている。それでいて、決してライラを遠ざけない。ファンルーをはじめとした従僕連中はみな、予想だにしなかった《英雄の血》オースティンの気質に驚き呆れているが、ライラにいわせれば、彼も女官たちの主人たる皇女マーリと大差ない。その行動は、ある素直さで一貫している。

 ときおり、女官でただひとり彼に侍りながら、力いっぱい笑いだしたくなることがある。うらやましいまでの素直さと純粋さとを、大いに嘲笑ったあとで、愛おしみたくもなる。けれど、実際はそうすることなく、苦しみ、目を逸らしつづける彼を、ただ冷然と微笑を浮かべて眺めている。見守るだけで、救いの手を差しのべることなく、彼の煩悶を捨ておく。

 皇女の命令に従い、いかにも明るい声で彼を呼びつづけ、彼にかしずくことが、他ならぬ彼をいらだたせ、いっそう逃避を促す。そして、いらだつのはまだ期待のかけらが残っているからであり、いらだつからこそ彼は自分から離れられず、さらなる不快感が募る。そんな彼を見やって、自分はある種の幸福感に浸る。

 悪循環——愛すべき、悪循環。彼はそこから脱するために、道理を曲げ、親しかった乳兄弟をラージャスタンに呼び寄せようとしている。では、自分は? 二人でいては抜けられぬ暗い穴に、永遠にいつづけたいのだろうか? この世の欺瞞と矛盾と混沌との、その先にある崩壊とは、いったい何なんだろうか? 崩壊のあとにくるのは?

(どこへ行くのか)

 赤い花弁が風に呑まれていく。(何をしているのか)

 ——すでに、壊れているのか。……

「オースティンさま」

 強風に吹かれて、ライラは眼をすぼめた。「オースティンさま、旦那さま——」

 少女は振り向いた。視界の端に、庭にはない色彩をとらえたのである。

 風に枝揺らす灌木の陰で、彼が眠っている。本を枕にして、眠るように横たわっていた。眠りとは死であり、それはすなわち、この世にいないということを積極的に表現している、ともいえる。死につつある《赤の庭》で、日がな一日寝て暮らす彼は、まさしく、ラージャスタンの地において生きてはいない。

「オースティンさま……」

 ライラは眠る少年のかたわらに膝をついた。

 オースティンは動かない。わずかに頬が痙攣したものの、無視を決めこむつもりのようだ。

「庭師たちが困っていますわ」

 ライラは目を伏せると、慎重に言葉を選んで話しかける。「あなたさまがここにいらしては、仕事ができませんもの」

「……」

 オースティンの灰がかった青い瞳がのぞく。静かにひらかれた眼は、少女の姿を確かめたあと、すぐに半ば閉ざされた。

 皇帝や宮殿の都合ではなく、民を持ちだされたところに、さしもの彼も応えざるをえない理由がある。オースティンは伝統的に国民と親しく交わってきたトゥルカーナの公子であり、いくらわがままに振るまってはいても、皇女マーリとは異なる。民に対する責任意識がそれなりにあって、そこを突けば、おそらく動かせないことはないはずだった。

「彼らの仕事を奪わないでやってくださいませ、オースティンさま。あの庭師たちは、宮殿の庭園整備を生業にする者たちですから、この仕事を失っては暮らしていけません」

「……給金だけくれてやれ」

 オースティンはようやく返事をした。ライラは笑い、

「そういうわけにはまいりませんわ。むろん、用意させた苗の代金は支払いますが、履行されぬ仕事に報酬はありません。その苗も、植えずに放置すればじきに枯れるでしょう」

 と、答える。次に返ってきたのは、少年のいまいましげな舌打ちである。

 トゥルカーナ公子オースティンがこの《赤の庭》で眠るようになって、どれほど経っただろうか。

 彼は言った。すでに果たされたふたつの要求——従妹姫アンジュー・ササンドにフェイジャ宮の一室を与えた分と、いま現在ライラのみをそばに仕えさせている分は、きちんと公務をまっとうする。だが、残りひとつの要求——乳兄弟アレン・クラヴァールをトゥルカーナから呼び寄せること——が実行されない限り、それ以上の仕事はすべて捨ておく、と。

 実際、オースティンはそうした。多少の混乱に見舞われつつ無事に終了した慈善園訪問ののち、各地の孤児院や救護院を次々に慰問した公子は、帰城するなり《赤の庭》に寝転がった。そうして、そのまま幾日も、夜に皇女の寝室へ赴くほかは何もせず、ひたすら眠って過ごすようになったのである。

 ときおり手持ち無沙汰になって、書庫から本を借りてくることもあるが、公務には何ら関わりのない読書だった。ファンルーはライラを通してたびたび説教と説得を試みるものの、彼女の弁論は「皇家の御ために」という聞き慣れた核心があるだけで、オースティンを動かす力はない。たかだか六週間程度、とライラは思うが、ファンルーは皇帝の威信に傷がつくといって折れない。ライラは毎日のように、眠るオースティンにファンルーの意向を伝えた。

 しかし予想外なことに、六週間はまたたくまに経過する。六週間は、ラージャスタン皇都ファテープルからトゥルカーナ首都クレイガーネアへ向かい、アレン・クラヴァールを連れて戻ってくるには充分な時間のはずだったが、なぜか期日を過ぎても使者が帰らない。

 使者は、予定より一週間遅れて復命した。けれど、馬車にアレン・クラヴァールの姿はなく、二人いた使者のうち一人しか乗っていなかった。帰還した使者の報告によると、公子オースティンの小姓である少年は、アグラ宮殿で主に再び仕えることを拒否したという。もう一人の使者は、説得のためサンヴァルゼ城にとどまっている。

 ファンルーは大喜びだった。小姓本人が拒否したのでは、トゥルカーナにおける主従関係の伝統からいって、オースティンには無理強いできない。いつまでも待っていたところでアレン・クラヴァールはアグラ宮殿入りしないのだから、かくなるうえは、公子は一刻も早く公務に復帰すべきである——と、ファンルーは例によってライラに伝えさせた。

 が、オースティンはその提案を却下する。

「アレンは来るさ」

 そう断言し、彼は引き続き《赤の庭》で眠りについた。

《五星》次席の堪忍袋の緒は、もはや予断を許さない状態にあった。ファンルーは毎日、仕事にぬかりの多いメアニーや、元凶といえるライラを呼びつけては当たり散らした。しまいにはマーリに直接訴えることもしたが、皇女は完全にオースティンの味方で、ファンルーの要望をあっさりと退けた。

「オースティンさまがおかわいそうよ!」

 まったく無邪気に、皇女はいう。「あなたは故郷を離れたことがあるの? ファンルー。いいじゃない、公務のほうはスネイリ公爵におまかせすれば。あなた、旦那さまに要求ばかりしていないで、アレン・クラヴァールがその気になるよう努力してちょうだい。わたくしだって、早く旦那さまのお元気な姿を見たいんだから」

 少女はそう言って、唇を尖らせた。それから、意気消沈したファンルーには目もくれず、ライラへ向き直り、

「ねえ、ライラ、お願いね?」

 と、甘えた声で乞う。

「何でしょうか」

 ライラが聞き返すと、

「もちろん、オースティンさまのこと!」

 マーリは語気を強くする。「わたくし、旦那さまが心配なの。最初はあんなにもお優しくて、はつらつとしてらしたのに、最近はトゥルカーナを思いだしては涙をこぼされるのよ。だから、旦那さまが元気になるように、何でもしてさしあげてね。わたくしの代わりに」

 ちなみに皇女は、夫たる公子の三つの要求のうち、アレン・クラヴァールの件しか知らされていない。かつてオースティンのために自殺を図り、夫に疎まれて軟禁されていた従妹姫を呼び寄せたことも、ライラひとりを侍らせていることも、まちがいなく皇女を不安にさせる。

「何でも、といいますと」

「何でもよ!」

 マーリは力いっぱい答えた。「例えば、オースティンさまがお好きな料理とか、大道芸人を連れてくるとか。旦那さまのためなら、どこの馬の骨をアグラ宮殿に入れてもかまわないわ。ね、お願い」

 ライラは、さらに掟を逸脱しようとしている皇女と、暗い表情で肩を震わせている先輩女官に挟まれて、反応をしばしためらった。が、彼女が口を開く前に、ファンルーのほうが爆発した。皇女の教育係も兼ねた《五星》女官には、マーリを叱責する権限も与えられていたけれど、おそらくこのときのファンルーのような怒りかたをした者は前代未聞だったろう。

 ファンルーは金切り声で皇女の名を叫ぶと、涙ながらに次期皇帝としての自覚を問いただした。ファンルーの剣幕に、さすがのマーリも驚いたようで、すぐに謝罪してライラへの命令を撤回し、

「訂正するわ。だから、泣かないで、ファンルー」

 と言って、アグラ宮殿に何者かを迎え入れる場合は、身元の確かな者に限るとした。マーリという少女は、幼く考えなしではあるものの、気質は悪くはないのである。

 そこでライラも、ようやくうなずき、

「それでは、謹んで承ります。姫さま」

 と、皇女の命を拝受した。

 あれから、すでに一ヶ月は経っただろう。いまだにアレン・クラヴァールは到着せず、オースティンは《赤の庭》で眠ったままだった。

 少年が目覚めなくとも、季節は着々と移り変わっていく。この地には雨季が訪れようとしており、乾季の終わりに咲く花はすでに実をつけた。

 ライラは毎日のように、彼の好む鹿鍋をつくったり、彼が興味をもっているというラージャスタンの伝承に詳しい老人を招いたり、慈善園訪問の際に彼がすがったキサーラという少女を呼んだりしている。しかし、オースティンは依然として、夜以外は《赤の庭》を動こうとしない。それでいて、仮に皇女の寵愛が失われれば、自分の立場が危うくなるだろうことは充分に理解しているらしく、皇女の思慕と同情を促す挙動にぬかりはなかった。

 少年はこうして《赤の庭》に居座りつづけ、誰も彼を去らしめることはできない。

 オースティンが日中《赤の庭》に入り浸っているので、庭師は作業に着手できず、《赤の庭》はその名を恥じなければならない。

 数日前に入城した庭師たちは、火の日を迎えるにあたり、わざわざ陳情申しこみ手続きを踏むと、影の皇帝と影姫ライラにむかって、どうか庭園を整備させてほしいと懇願した。オースティンのいない深夜のうちに作業を進めるという案も出されたが、庭師たちは困惑するばかり。

 そこで、オースティンを説得すべくやってきたのだった。

「かまわないから、作業を始めさせろ」

 オースティンは大儀そうに言う。「僕はここを動きたくない」

「そういうわけにはまいりません。トゥルカーナではどうあれ、ここでは皇家の人間のかたわらで庭仕事をするなど、許されることではありませんから」

 ライラは《マーリ》らしく正論を口にする。「簡単なことです、オースティンさま。今日より三日ほど、《赤の庭》にはお近づきにならないでくださいませ。たったそれだけで、庭師たちが救われるのです」

 少年は押し黙った。正論に反発してまで自己主張する気はないらしい。とりわけ、民という言葉には抗いがたいようにみえた。そこは、過不足ない教育を受けた、健全な公子だといえる。

 ライラは思う——公子はしょせん、ひねくれ者の皮をかぶっているだけ。アグラ宮殿中を呆気にとらしめているわがままも、もう一枚の皮にすぎない。オースティンは、彼の自然な心の流れから恣意的に振るまっているのではなく、必要に迫られてそうしているのだ。必要とは、アレン・クラヴァールの存在のことであり、彼をラージャスタンに呼び寄せるためには、邪魔な掟や伝統を除かなければならない。

 ライラも、影姫として滞りなく仕事をこなすため、オースティンの前歴はかなりの部分を聞き及んでいる。ときどき祝宴を抜けだす、という話はあったが、国内の評判は上々、国外でも貴族といわず民衆といわず、彼を知る機会のある者の多くがオースティンを褒めそやす。素行についても、来るもの拒まずの女性関係以外は特に問題はない——むろん、皇女には伏せられていることだが。

 彼は本来、人心を掌握すべき《英雄の現身》として、何ら差し障りのない人物である。それが、仲のよい下僕を呼び寄せ、うつろな心を満たすためだけに、アグラ宮殿中の反感を買うことも辞さなかった。つまり、彼はアレン・クラヴァールを心待ちに眠りながら、自分自身を曲げ、苛んでいる——マーリの夢みる《マーリ》に、心奪われたがゆえに。

(《英雄の血》なんて、どうでもいいけれど)

 少女はひとりごちる。(トゥルカーナ大公の子が、こんなにも簡単に、私の手のなかに落ちる)

 何も感じるところはないようでいて、わずかに胸の奥が疼いた。

 ややあって、オースティンがぽつりとつぶやく。

「……それでも、ここにいる」

(ばかな人)

 ライラは無感動なまなざしを少年に向けた。

 この《赤の庭》で、初めて《マーリ》とオースティンは一緒の時間を過ごした。まるでつくりごとめいた、実際つくりごとにちがいなかった出会いと、ジャムナ川の岸辺における再会のあと、《マーリ》は彼の退屈を埋めるべく、もういちど姿を現した。東の流儀を恥じらいつつも受け入れて、遠慮がちに体重を預け、ともに《赤の庭》を見てまわった。

 奔放、剛胆、伝統に重きをおきながらより大事なものを知る皇女。彼の《マーリ》は、ムリーラン宮にいる幼い娘でも、職務に忠実な女官でもなく、常緑の森やジャムナ川、《赤の庭》にいたあの少女である。彼にとっての《マーリ》はもうどこにもおらず、しかし現実に目の前におり、ふたつは矛盾している。

 そうして彼は、《マーリ》のいた《赤の庭》で眠るのだ。

 本物の皇女マーリさながら、美しい夢をみる。

「なぜでしょう、オースティンさま」

 ライラはそ知らぬふりで訊いた。「なぜ、盛りを過ぎたこの庭に居座る必要が? 目に楽しいとも、思えませんけれど。アレンさまをお待ちになるなら、サイアト宮のお部屋でも、ムリーラン宮のお部屋でもよろしいではありませんか」

「僕の勝手だ」

 オースティンは押し殺した声音で答える。

「——行け」

 最近は見慣れてきた、さも憎々しげな表情。「さっさと、行け」

「失礼いたします」

 ライラは低頭すると、ゆったりとした足どりでオースティンを離れる。

 すかさず、オースティンとのやりとりの場に人通りがなかったことを確認する。庭師たちには悪いが、オースティンが人目をはばかる余裕のない今、《赤の庭》が荒んでいるのはむしろありがたかった。《赤の庭》に赤い花が咲いていないとあっては皇帝の威信に関わるので、客人を泊めることができず、現在、客舍は無人である。

「《英雄の現身》とラージャスタン皇女」夫妻のあいだに流れる微妙な空気を、宮殿の外の人間に悟られてはならない。ライラは、自分が少年に対してとった行動の帰結に自覚がありながらも、公にはアグラ宮殿務めの《五星》末席、マーリ皇女の影姫としての完璧な挙止を貫こうとした。

(アレンさまは、何をしているのか)

 オースティンが疑問に思っているだろうことを、ライラも思った。

 アレン・クラヴァールが来れば、すべて解決する。

 もとはといえば、ライラがオースティンを受け入れさえすれば、公子もわがままを通そうとはしなかっただろう。けれど、ライラは立場的にも、個人的にもそうはできなかった。ライラとてファンルーと同じ慈善園出身者であり、また、仮にそうした場合に失うものの大きさは計り知れない。

 何よりも、ライラはオースティンのあがく姿を見たかった。あがいて、もがいて、安易な手段を用いずに、その純粋さでもってあらゆるものを壊していく少年を。それは、ありふれた幸福を手に入れるよりも、はるかに愉快で、美しい情景である。相愛の心地よさはわからないでもないが、そんなものは誰にでも知りうるものであり、オースティンの関与すべきこととは思わない。

 ライラがオースティンを受け入れない前提で、彼がアグラ宮殿を停滞させている現状を回復できるのは、アレン・クラヴァールしかいない。

 乳兄弟の存在は、彼を幸せにするだろう。ただし、あくまで一時的な話だ。オースティンの居場所はもはやトゥルカーナではなくラージャスタンであり、ムリーラン宮とシターラ宮とが共謀して彼を招き寄せた以上、彼もすでに巻きこまれている。陰謀ののちに、彼自身が動かざるをえないとき、彼ならば——きっと、大陸をも手に入れるだろう。民が慕ってやまない《英雄の血》と、飽くなき純粋さを抱いているのだから。

(そのときは——)

 ——そのときこそは、あなたの手をとりたい。

 そう考えたライラの胸に、空しさが降りてきた。そんなときが、万が一来たならば——とも、彼女は思った。

 彼女のみるものも、まちがいなくひとつの美しい夢だった。

 

To be continued.

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